ここまで全国ネットのニュースで報道されるとは、正直、驚きでした…。
4月20日をもって、北海道の北見−池田間を結ぶ北海道ちほく高原鉄道(ふるさと銀河線/旧国鉄池北線)が運行を終了(廃止)。
東京のニュースでも報道されるものかとチェックしてみると、NHKが『ニュースウォッチ9』で北見発最終列車の発車光景を生中継し、民放各社も夕方のニュースで報道するなど、大きな話題に。CX『FNNスーパーニュース』が、旧国鉄池北線時代のSL貨物列車の映像などを織り交ぜながら、もっとも時間を割いていたのは意外でした。録画し損ねて残念(T_T)
いっぽうテレビ朝日『スーパーJチャンネル』は、VTRの大半が鈴木宗男と松山千春の挨拶映像で占められという、センスの欠片もない内容(苦笑)。『報道STATION』では無視されていましたし、同局はこの件にクールらしく。
「ローカル線の廃止」という哀愁も絵になる北海道が現地なことや、旧国鉄赤字廃止線から第3セクターに転換された路線で、初の全面廃止になることなどが、メディアに大きく取り上げられた要因なのでしょうか。その内容も惜別と哀愁に満ちた構成で、いずれも「廃止やむなし」という視点でした。
そうした報道から抜粋すると、同線で使用されていた稼働車両10両のうち、3両はミャンマーに、1両は国内民間に売却。残り6両は、陸別町に保存されるのだとか。今回の路線廃止でもっとも痛手を受け、最後まで廃止反対の声を挙げていた同町だけに、無念さが現れているようでも…。とはいえ、保存車両の多さは嬉しいことです。
各番組のVTRで盛んに取り上げられていた松本零士氏デザインの銀河鉄道999ラッピング車両も、同町で保存されることに。町や商工会の手で川上-陸別間(9.8km)のレールが残され、車両は動態保存される予定。同町の観光スポット:銀河の森天文台を含む観光構想《銀河の森》の一環として、川上駅を歴史記念館とし、見学者が陸別駅から列車に乗って入館するシステムを考えているのだとか。
ということは、あの川上駅も残されるのですね。これまた嬉しい限り。早期実現を願い、開業した際にはぜひ訪れたいものです。途中の分線駅まで残してくれればと思うのは、贅沢ですかね。
【↑ 川上駅にて。 *2005.09.27、撮影】
昨年9月末に北海道を訪れた際には、3日間かけて同線の全駅を訪れましたが、川上駅の風格には他を圧倒するものがありましたからね。周囲の何もない光景に溶け込んだ、どこか異次元の世界でもあって。何度となく訪れても、その度に新鮮な情景を感じたものです。
【↑ (左)置戸駅構内の開駅の碑 (右)笹森駅に停車する《銀河鉄道999》車両 *2005.09.27、撮影】
気がかりなのは、愛らしい駅舎の小利別駅がどうなるのか。訪れる度に廃屋の増えていた集落が、鉄道廃止とともに、さらに廃れてしまうのでは。こちらも陸別町の管内だけに、いい形で残されることを期待したいですね。
非現実的な願望を言わせてもらうなら、陸別-小利別間が保存されれば素晴らしいのですが…。
【↑ 小利別駅にて。 *2005.09.27、撮影】
また、簡素ながら可愛らしい駅舎で、駅前も花壇がキレイに整備されていた愛冠駅も気になりますね。一年後に訪れてみたら、跡形もなくなっていた…。なんてことになると、あまりにも悲しいですし。
この全駅探訪については、いずれ廃止後の様子も含め、まとめたいですね(いつになることやら)。
が、そんな感傷に浸る間もなく、保存区間以外の銀河線は跡形もなく消滅してしまいそうで。
同社では、運行最終日の最終列車が通過した後、つまり20日の23時以降から、すぐに遮断機の撤去作業を始めるとか。また、5月からは、踏切部分のレール撤去と再舗装の工事もスタートするらしい。
これだけ即座に撤去作業が始まる例というのは、ちょっと記憶にないですねぇ。まさに、最初から「廃止ありき」で存続が論議されてきた結果とも言えそうな。一刻も早く、その痕跡を消したいというような早業だもの(苦笑)。約40億円とも言われるほど潤沢な、第3セクター転換時から残る第一基金の使い道が、それですか…。
そのままレールまで全線撤去してしまいそうな勢いですが、レールや信号機など運行業務に関する施設は、第3セクター転換時に「鉄道事業に使用するため」旧国鉄から無償譲渡されたもの。事業者が勝手に処分して良いものかどうかはグレーゾーンらしく、すぐには撤去されない雰囲気ですね。
ちなみに、廃止直前の4月9日に実施された北見市長選では、同社社長も務める現職・神田孝次氏の対抗馬として、路線存続を訴える旧北見市議・小野哲昭氏が立候補していたとか。結果は、神田氏が23,000票差で3期目の当選。路線廃止や施設撤去が粛々と、見方によってはスムーズに進んでいる背景からは、何やらいろいろと…。
廃止後のバス転換に関しては、国土交通省・北海道運輸局サイト内「ふるさと銀河線」に関してページで説明されています。最新の輸送計画(2006.01.17)を見る限り、北見-置戸と池田-陸別間に関しては概ね列車本数と同等で、もともと運転本数の少なかった置戸-陸別間は大幅増便という印象ですね。ただ、これがいつまで続くかは…。
ところで、昨年の廃止決定以来、何かと話題になっているのが、同線の事業継承に名乗りを上げたトラベルプランニング。何やら、プロ野球・近鉄バファローズの球団消滅騒動を思い起こさせるような。
その構想とは、JR石北本線経由で札幌-網走間を結ぶ特急《オホーツク》を、《スーパーオホーツク》として銀河線経由で運行するというもの。
同列車のメイン需要は、札幌と北見の直結。経由地が変わっても目的は継承され、札幌~北見間の所要時間にも大差はないはず。札幌・帯広・北見・網走を結んだほうが、利用率も上がりそう。石北本線内の《オホーツク》は、観光シーズン以外はガラガラですからね。
が、同列車は、札幌-旭川間を結ぶ特急《スーパーホワイトアロー》や《ライラック》の補完列車でもあるわけで。北見方面から最終の《オホーツク8号》に乗車すると、石北本線内では空気を運んでいた列車が、旭川で(自由席が)満席となり驚かされることに。
そうした事情も考慮すると、ただでさえ稼働可能な車両確保に四苦八苦しているJR北海道が、《オホーツク》の経路変更に伴う、札幌-旭川の輸送力増強を実現できるとは思えない…。
道央-道東で都市間バスに歯が立たないJR北海道の現状からすれば、起死回生の夢プランかもしれませんが。
いずれにしても、非現実的な構想と言わざるを得ないですね。
というか、こんなプランが浮上してくると、石北本線の開通意義とは何だったのかを考えたくなります。
旧・池北線が札幌-北見・網走を結ぶ旧・網走本線として開通した経緯はもちろん、後に開通した石北本線の輸送量が、上川-北見間で極端に落ちてしまう現状を思うと…。網走から遠軽行の普通列車に乗っても、乗客のほぼ全員が北見で下車してしまいますし。列車本数が極端に減る遠軽-上川間は、なおさらのこと。
詳しいデータを分析したわけではありませんが、実際に乗車した際の感覚では、石北本線:北見-上川間より、ふるさと銀河線:北見-池田間のほうが明らかに利用率は高かったわけで。沿線人口が極端に減少する置戸-陸別間にしても、列車本数の少なさもあってか、驚くほど利用者が多かった印象もあります。
結局ね、存続が難しかったことは確かでしょう。
JR北海道が見捨てた時点で、わかっていたことでもありますし。
ただ、第3セクター転換後の経営姿勢や、廃止へと至る過程に、問題が噴出しているんですよね。沿線で世界規模のRALLY JAPANが開催された際にも、何の波及効果も生まれず、生み出そうともしなかった姿勢が疑問なように。
「もっと他に、やりようがあったんじゃないのか」。
鉄道事業からの観点だけでなく、第3セクターという事業運用が抱える問題点まで、改めて浮き彫りになった事例とも言えそうな。
【↑ 岡女堂駅。右写真・通路の先が工場。 *2005.10.01、撮影】
そんな考察は、さておき。
もうひとつ気になっていたのが、同線内で唯一の民間設置駅、岡女堂駅の行方。
同駅は、本別町にある豆菓子製造販売業者:とかち岡女堂が、自社工場の敷地内に設置したもの。駅からそのまま同社工場に入れるという、変わった構造も話題でした。ギャラリーとおかめの面コレクションを集めた《豆ドーム》や、《豆男爵の館》(売店)が敷地内に併設されるなど、観光客誘致を目的に設置された駅でもあったんですね。もちろん、一般乗客も自由に敷地内を通り、駅を利用できました。
この工場は、神戸市にある甘納豆の老舗・岡女堂が、地元の誘致などもあって1988年に操業を開始したもの。岡女堂駅の開設は、1995年のこと。1998年には本社から独立する形で、とかち岡女堂となった同工場ですが、今年4月には経営不振から全施設を観光業:鶴舞グループに売却。同グループが100%出資する十勝豆工房に生まれ変わり、新たな豆屋とかち 岡女堂本家として、銀河線廃止日の4月20日に新装仮オープンしたとか。
まるで、銀河線と同じ運命を辿ったようにも感じられてしまいます。
銀河線が存続していたなら、観光面から違った展開が見られたかもしれませんね。
何はともあれ、民間駅をどう処分するかという問題は、皮肉な形でクリアされることに。あの珍しい駅も、消えてなくなる運命なのか…。
昨年9月に同駅を訪れた際は、滞在した小1時間ほどの間に、数組の客が買い物にやってきて驚かされたものです。皆、クルマ利用でしたが。その程度の売り上げでは、経営破綻は避けられなかったのでしょうね。自分も、「阪神優勝記念」の団子と甘納豆(1パック100円)を3袋買っただけでしたし。
【↑ 全ての商品パッケージに、阪神タイガースの旗と「祝・阪神優勝」メッセージがデザインされていた】
そう、ちょうど《豆男爵の館》で、「阪神優勝記念セール」が実施されていたんですね。《阪神優勝記念コーナー》まで設置され、なぜか店内で阪神グッズがたくさん売られているという、奇妙な光景が広がっていました。
恐る恐る売り場のおねーさんに尋ねると、「本社の社長が熱烈な阪神ファンなもので」という、恐縮した答が返ってきたり。いや、こちらも阪神ファンなので、嬉しかっただけなのですが(苦笑)。
ちなみに、この本社とは、正真正銘・本家の岡女堂を指すのでしょうね。
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