未だにATS-SWしか設置していないJR西日本と、関西圏における過密ダイヤの列車運行には、危機感を抱いていた人も多いはず。
私鉄と対抗するための高速運転を続けながらも、新快速の遅延は日常茶飯事で、回復運転もまた当たり前…。
そうした状況下で、衝突以外の安全性に関しては、運転士の力量のみに任せられてきたわけですから。ある意味、紙一重の綱渡り的な運行だったことは既知の事実ですよね。
今回のケースでも、伊丹駅でのオーバーランによる1分30秒遅延に対し、回復運転を行なった結果、制限速度を大幅に超過して事故現場のカーブに進入したのは明らか。しかも、実際には40メートル(車両2両分)だったオーバーランを、運転士と車掌が申し合わせ、運転指令に8メートルと虚偽申告していたことまで判明。
当初の報道に「8メートルで1分30秒遅延?」と、『電車でGO!』や『Train Simulator』のプレイ経験がある方なら思ったことでしょう(^^;;
運転歴11ヶ月の運転士は過去にも100メートルのオーバーランを起こし、車掌時代に居眠りでの処分経歴があったことも、大々的に報道されています。40メートルや100メートルって、そりゃもう、ほとんど通過扱いじゃないですか。うっかりミスのレベルを超えていますし、運転資質を問われても仕方がないところ。
同時に、遅延に対するJR西日本の厳しい管理と、処分についても言及されていますね。
過密ダイヤがもたらす運転士への重圧は計り知れないものがあり、それに反対する労働組合と会社側の対立図も浮き彫りに…。JRグループのこうした労働条件の過酷さは、以前から様々な書籍でも指摘されてきたことですが。
また、JR各社では旧国鉄からの分割民営化後、人員削減のために新規採用を控えてきた結果、30歳代の職員が極端に少ないという“いびつ”な人員構成が出来上がりつつあります。この点も、未熟な運転士を生む背景となっているんでしょうね。経験を積み、若手に指導すべきクラスの人員が決定的に不足している。こうした側面からも安全対策が疎かになっている現実は、JR各社の労組も訴えているわけで。
実はこの事故が起きた4月25日に、北海道運輸局がJR北海道に対し、「事故防止への取り組み状況などを立ち入り指導する」という《フォローアップ》を始めているんですね。
JR北海道管内では、今年1月〜4月13日までに33件もの事故が発生していて、例年比2倍という異常事態。しかもその最中、福知山線事故の翌26日にも、千歳線恵庭駅で《快速エアポート162号》(札幌発新千歳空港行き)が65メートルものオーバーランを起こしたと。
昨年、事故を多発したJR九州も、福岡周辺での列車遅延が日常化していますからね。個人的には、いつどうなってもおかしくないと感じていたり。自分も昨年夏、肥薩線内でひどい体験をしましたからねぇ。
運行環境の劣化は、JR西日本に限った話ではないと。旧国鉄時代には考えられなかったミスや事故の可能性が、競争力強化や経営効率化を優先する体制下で確実に芽生え、現実味を帯びてきていることが。
JR西日本もATSに関する対応の遅れは認識していて、福知山線でも今年6月からATS-Pを導入し、直通運転する東西線と同レベルまで安全性を高める予定だったようですが…。対応が後手後手にまわっている感は否めませんね。
速度制限まで管理するATCやATS-Pを積極的に導入してきたJR東日本と比べ、安全対策への投資の低さ、危機意識の薄さは以前から指摘されてきたことでもありますし。
また、JR東日本以外のJR各社が、衝突事故にのみ対応可能なATS-S*システム(ATS-SNなど)しか導入していないことも、今回の事故に関する報道で明らかになりました。輸送密度の低い地方路線ならATS-Sでも大丈夫かもしれませんが、運転士頼りの運行を続けていることは確かなので。。。
(その4へ続く)
コメント
以前からJR西日本はJR東日本の画一された通勤車両と比較して、新快速をはじめとして車内のグレードは高く東京の友人などに自慢していたものですが、その裏で安全性がなおざりになっていたことに愕然としました。
てっきり福知山線ならATS-P位は導入されているとは思ってましたが、今なお緻密なダイヤを運転手の力量に任せていたことに驚きました。
金は限りがあるのでどこに金をかけるかということになってきますが、今回の事故を通じてまずは安全ということを考えなくてはなりません。
定時運転がお客様の命を奪うようなことがあってはならないですから。
成果主義ニッポンの末路
今回の列車事故を見て本当に腹がたちます。
確かに運転士の問題もあるがそういう運転士を作り出したのは単にJRのせいだけではなく今の日本にはびこった人事や給料をたてにした必要以上の過度の上からの要求、それに合わせて騒ぎ立てる上司、それに動かされる現場の
車内のグレードや乗客サービスに関しては同感です。JR東日本より明らかに上で、自分も関西へ行く度に羨ましく思っていました。ただ、そのいっぽうで…スピードや時間厳守もサービスの一環であることに間違いはないわけで、それも私鉄との競争の一環だったんですよね。首都圏にはそうした競争は(一部を除いて)ありませんし。ただ、それに伴った安全管理が為されなければならないことは、教訓になるのだと思います。
はじめまして。
仙台在住なので一つ追加させて頂きますと、東日本の廉価版のPともいえるPsもありますね。地方都市圏向けとして全国に広まって欲しいものです。
しかし宝塚線は二ヵ月後にPが整備される予定だったということで、何とも気の毒なタイミングでしたね。しかし、京阪神間のPがほぼバックアップ的な役割に甘んじていることは驚きです。現在JR西でPが入っているところはもともとBが入っていたところの様です。
ご指摘ありがとうございます>つが様
JR東日本の安全対策も首都圏から急速に全エリアに広がりつつありますし、全国的にも廉価版ATS-Pの普及が待たれるところですね。こうしたシステムの開発経緯にはあまり詳しくないのですが、JR各社の間で連携、協力して開発→全国設置へ…などという動きは難しいのでしょうね。。。何かと単独行動を取りたがるJR東日本が一歩先を進んでいるのですし…。
JR西日本 宝塚線でATS-P型の設置工事を再開
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朝日新聞:JR宝塚線で新型ATS設置工事 国交相の意向受け
マスコミ各社の報道によると、今月2日に北側国交相が「ATS-P型を設置しなければ、事故路線の運行再開を認めない」との意向を示したとか。
で、これを受けてJR西日本は大慌てでATS-P型の設置工事を