一畑電車デハニ50形の保存活用

[Traffic] Railway

 島根県の一畑電車で、旧・一畑電気鉄道時代から活躍してきたデハニ50形。最後まで生き残った2両(デハニ52:1928年=昭和3年製造、デハニ53:1929年=昭和4年製造)も今春に引退し、寂しくなったなと思っていたところ…。
 その保存活用計画についての話題が出てきたので、覚え書き。

 デハニ53
 【↑ 現役時のデハニ53。旅の途中で出雲大社前駅に着いたところ、折り返しで発車していくのを目にしたので慌てて撮影。旅の最終日だったこともあり、時間の関係から目にできたのはこのときだけ(T_T) *2002年12月】

 廃車→静態保存ではない、休車→動態保存という前提は何よりだけれど、先行きはなかなか難しいらしい。島根県の一畑電車デハニ50形活用検討協議会によると、営業運転を行なうためには以下の点で【鉄道に関する技術上の基準を定める省令】が満たされていないそう。
(こちらで勝手に簡略化したまとめなので、正式な内容は同協議会サイトを参照のこと)

  1. 保安ブレーキ装置が未装備
    • デハニ50型は制動力を一つのブレーキシリンダーで得る方式のため、保安ブレーキは既存のブレーキ装置から全く独立した装備が必要となる。また、単行運行するためには、保安ブレーキを二重装備する必要もある。
  2. 車両の火災対策が不可
    • 床、扉及び車内壁面が木製で、使用している電線類もビニール被覆電線である。
  3. ATSが非装着
  4. 運転状況を記録する装置の不備
    • 運行管理装置(PTC)、車両制御・情報管理装置(TIS)などの設置が必要。
  5. 旅客用乗降扉の問題
    • 省令では自動化されていなければならないが、デニ50形は手動である。また、戸閉め表示灯(扉が開いている間は車体側面の赤色のランプが点灯する)と、扉が閉まらなければ発車できない機能も設備しなければならない。
  6. 緊急列車停止装置の不備
    • 運転士が運転操作不能になった場合に列車を自動停止させる装置、通称“EB装置”の設置が必要である。
  7. 乗務員室の構造に問題
    • 旅客が誤って乗務員室機器を操作しないように、スイッチ類に蓋をする等の措置が必要。
  8. 移動円滑化のために講ずべき措置
    • 車椅子スペースと車椅子スペースまでの通路を、幅80cm以上等の法律に定められた基準で確保しなければならない。
    • 列車の行先と種別、次の停車駅を表示する設備を設けなければならない。

 うーん…。いろいろありますねぇ。。
 特に1と2の項目に関しては、車体を新造するのと同程度のコストがかかり、なおかつ“デハニ50形らしさ”が失われてしまう可能性もある。この点で同協議会は、「車両の原形をできる限り残す」方向性で保存方法を検討するとある。
 完全に現行の省令に沿った改造を施し、定期列車として旅客運用を行なえれば言うことはない。でも、そのためには概算で2億4000万円もの費用が必要だという。それが無理だから、現役を引退したことにも納得。。。
 ならば、一部の改造だけで済むよう、旅客を乗せないで運行する案はどうか。
 などなど、様々なプランを模索中というのが現状らしい。
 要は、以下の3つのプランとなる。

  1. 出雲大社の神事など沿線の催しに合わせ、臨時列車として運行する。
  2. 雲州平田駅車庫から乗客を乗せずに走行し、出雲大社前駅や松江しんじ湖温泉駅などで展示する。
  3. 雲州平田駅の構内側線で体験運転を行なう。(本線上は走行しない)

 車両整備コストから言えば、1→2→3の順で高くつく。と言うか、営業車両として整備しなければならない1案は非現実的だと考えるべき? 個人的には、整備面が事業車両扱いで済む2案+3案が実現されれば、幅広い層から指示されるのではないかと。3案だけでも画期的だけれど、できれば走行シーンも見たい…とは誰もが思うことなので。
 なお、いずれの案でも、整備後の年間維持費は100~200万円という予測。であれば観光予算の範囲内だと考えられ、かなり現実的なプランであることもうかがえる。いずれにしても、具体的な方策実現に当たる一畑電車のメリットも考慮した、総合的な観光プランが完成すれば…と。
 こうした保存運転などの場合、現地までクルマで来て、体験&撮影だけして終わり…という層が多くなることも予想されるので。利用者が実際に乗車するよう、人の流れをリードする方策も必要だと思う。

 これら3案をベースに、一畑電車デハニ50形活用検討協議会では一般からも広く意見を募集しているそう。意見提出方法は同協議会サイトに詳しく解説されているので、興味のある方はぜひ。締め切りは12月4日。
 鉄道車両の保存形態について、自治体がここまで積極的な対応を見せるケースというのは、あまり耳にしたことがない。今後の、各地の保存活動にもひとつの指針となる動きだと思うので、結果が楽しみでもあります。

 *現役引退した電車「デハニ50形」の活用策について(島根県政策企画局広聴広報課県民対話室)

関連記事
  • デハニ活用策で意見募集 (2009.11.19/山陰日報)

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました