レールウェイマップル

[Traffic] Railway

 昭文社から発売されたばかりの、レールウェイマップル 鉄道地図帳を買ってみた。
 詳細は上記の公式サイトを参照してもらうとして、予想以上のモノだったというのが正直なところ。地図出版社の大御所が“鉄道地図帳”と銘打って制作しただけのことはあると。同様の出版物に新潮社:日本鉄道旅行地図帳があるので、両者の北海道版を例にとって、ちょっと比較してみようと思う。

*路線図に関して

【レールウェイマップル】

 鉄道路線図だけでなく道路、都市・集落、河川、岬、山、観光地といった「地図として当たり前の」要素も掲載され、主なバス路線(運行会社)が地図上に表記されているのもいい。要は、「読む地図」としてきちんと成立している。さすが昭文社といったところ?
 各路線(JR・私鉄)の複線区間、単線区間がそれぞれ二重線、太線で表記されていて、わかりやすい。データとしては頭に入っていても、こうして地図上に表示されるとまた新鮮な感覚で見ることができる。
 また、電化区間にはデッドセクションも表示。にも関わらず、電化、非電化区間の表示分けがないのは? どうせなら、色分け表示するなどの工夫が欲しかったかも。この地図帳を買うような人であれば、敢えて説明されなくてもわかることでしょうが…。
 車両基地(全般検査可能かどうかで区別)、車輌製造工場、信号場・信号所、急勾配、スイッチバック、ループ線、大カーブ、鉄道博物館、鉄道記念碑、車両展示、廃線跡、鉄道に関する映画等のロケ地、撮影ポイントなども路線図上に表記されていて、とにかく何でも詰め込んでみたという印象。
 が、記念物、ロケ地や撮影ポイントなどに関しては場所が大まかすぎ、この地図だけで現地に到達するのは無理。あくまで「このあたりに存在する」ことをイメージさせる程度。この地図の性格上はそれでいいのだろうが、情報の取捨選択が中途半端だとも言える。
 駅間距離が地図上に表記されているのは、わかりやすくていい。

【日本鉄道旅行地図帳】

 路線図以外の情報は皆無に近く、要は時刻表の路線図を正縮尺にしただけのようなもの。時刻表地図を見慣れている分にはいいのだが、これを“地図”と呼ぶには違和感がある。路線図としては正しい在り方でも、見ていて旅情が高まるようなシロモノではない。あくまで“鉄ちゃん”向けに特化したスタイルは、賛否が分かれるところだと思う。その分、レールウエイマップルとは違い情報の捨て方が潔いとも言えるのだが。
 複線・単線区間は太線・細線だけの区別なのでわかりにくい。電化・非電化区間の区分けはナシ。
 車両基地は別ページで一覧化され、レールウェイマップルにはない配属車両、所属記号も掲載されている。

*駅施設に関して

【レールウェイマップル】

 各駅には、駅施設に関する情報をマーク表示。その内容は、特急停車駅、列車交換(交換施設の有無)、スイッチバック、ループ線、頭端式ホーム、転車台、扇形車庫、みどりの窓口、レンタカー、駅弁、多目的トイレ、入浴施設、立食そば、駅スタンプ、硬券入場券、>発車音楽、駅ビル…と、多岐にわたる。重要文化財、登録有形文化財、近代化産業遺産、鉄道記念物も表記される。
 こちらも情報を詰め込んでみたという印象だが、もう少し取捨選択が必要なのでは。ターゲットが不明=不要な情報も多く、必要な情報を深くしてくれたほうが実用性は上がる。

【日本鉄道旅行地図帳】

 地図上の解説は一切ナシ。
 別ページに、路線毎の駅開業年、駅名変遷、駅間距離、路線名の変遷等が一覧表化されている。数値データだけを参照するのであれば、こちらのほうが情報量も多く便利。あくまでデータベースに特化する潔さは感じる。

*廃線、未成線に関して

【レールウェイマップル】

 JR(旧国鉄)の廃止路線は網羅されているものの、私鉄に関してはケースバイケース。北海道版を例に取ると、JR(旧国鉄)路線ではない廃止私鉄で掲載されているのは、三井芦別鉄道と三菱大夕張鉄道のみ。いずれも、山川橋梁、南大夕張駅といった登録有形文化財、近代化産業遺産があるために掲載されたと思われる。無数にあった森林鉄道、開拓鉄道などの軽便鉄道まで網羅しろとは言わないが、夕張鉄道や寿都鉄道、定山渓鉄道まで無視されているのは、どうかと思う。
 ただし、他地域版ではここまで大雑把に無視されてはいない。つまり、掲載、未掲載の基準に一貫性がない。他の要素はバランスよく構成されているのに、私鉄廃線だけがなぜこのような扱いなのか、疑問が残る。。。
 よく見ると、「原則として1984年4月1日以降に廃止された鉄道路線を掲載」とあった。旧国鉄:第1次廃止対象特定地方交通線の廃止・転換が一気に進んだ年度なので、そのような扱いにしたと思われる。確かに、見直してみると根北線が掲載されていない。が、白糠線(1983年10月23日廃線)は掲載されている。廃止日が近いからだろうか。このあたりが「原則として」なのかもしれない。

【日本鉄道旅行地図帳】

 この点では、「そこまで載せるか!?」と思うほど廃止路線を網羅している日本鉄道旅行地図帳に軍配が上がる。現役路線より廃止路線の扱いがメインではないのか? と思わせるような構成なので。
 また、先に触れた全駅の開業年月日、駅名・路線名の変遷などのデータ一覧表は、こうした廃止路線でこそ意味を持つのかもしれない。

*読み物ページに関して

【レールウェイマップル】

 それなりに充実していて、例えば北海道版であれば、鉄道遺産、博物館・記念館、終着駅、鉄道連絡船、駅スタンプ、駅弁、車両基地・車両工場、信号場、橋梁、トンネル、峠と難所、廃線跡・未成線、という項目が並び、それぞれ1~2ページずつ写真付きで解説されている。解説文もそれなりのレベルを保っていて、昨今の鉄道ブームに便乗する「はぁ?」と言いたくなるような有象無象の出版物、番組とは異なるもの。
 特に深い内容が記載されているわけではないが、「地図だけじゃありませんよ」という全体のバランス感は悪くない。

【日本鉄道旅行地図帳】

 あくまでオマケ程度。北海道版を例に取ると、名駅舎+仮乗降場・貨物駅舎(通称:だるま駅)と、鉄道保存施設の解説が各1ページずつ。
 別枠として地域特集があり、北海道版では簡易軌道について2ページで解説されている。これは面白い企画だが、“特集”と呼ぶには内容が物足りない。やるなら、せめて4ページ程度は欲しいところ。

*まとめ

 北海道版で比較するなら、レールウェイマップルは全80ページ、地図縮尺が30万分の1。日本鉄道旅行地図帳は全52ページ、地図縮尺は80万分の1。この違いだけでも、「読んで面白い地図」かどうか、情報量の差がわかると思う。
 要は、あくまで“地図”にこだわった作りのレールウェイマップルと、“地図帳”とは言いながら実質的には“便利帳”である日本鉄道旅行地図帳の違い、ということかもしれない。日本鉄道旅行地図帳は全52ページ中の半分=26ページをデータ一覧表が占めることからも、その性格は明らかに異なる。特に廃線・未成線に関してのデータは、個々に調べればわかるとは言え、こうして一覧にしてもらえると有り難い。
 言い換えれば、あくまでデータ本でしかない日本鉄道旅行地図帳と、1冊の本としても成立するルールウェイマップルだろうか。デザイン、ページ配分、読みやすさとバランス感など、本(地図)としての評価はレールウェイマップルのほうが圧倒的に上。ただ、どちらが実用的なのかと言えば…ケースバイケース。逆に言えば、どちらも非・実用的?
 なので、価格が上がってもいいから、この両方の要素を兼ね備えた“地図帳”が欲しかった…と思うのは贅沢だろうか。全地域を揃えると、けっこうな散在になってしまうので。。。

 昭文社を中心に、最近は地図系の出版社から様々なスタイルの地図が発売されている。カーナビの普及により道路地図の販売が激減したことで、相当な危機感を抱いている裏返しなのか。。。おかげで読む地図、面白い地図が次々に発案されるのも悪くない?
 人からは(異様なほど)地理に詳しいと思われている自分だけに、やはり地図が好きなようだ(笑)。

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