名松線が台風被害による運休から区間廃止へ

[Traffic] Railway

 やはり…。恐れていた事態が現実化した。
 高千穂鉄道に続く、悪しき前例とならないだろうか…。

 先の10月8日に日本列島を縦断した台風18号。意外に(?)公共交通機関、特に鉄道への被害は少なかったのだが、唯一と言っていいほど壊滅的な被害を受けたのが三重県の名松線(松坂-伊勢奥津)。全線ズタズタと言ってもいい状況らしく、当初、JR東海は「全線復旧には10月いっぱいかかる」との見解を示していた。
 が、1週間が経過した15日になって、ようやく復旧したのは松坂-家城間のみ。残る家城-伊勢奥津間では復旧工事すら始まっていないという報道を見たときから、「これは、ひょっとして…」とも思っていた。ただ、部分開通したこともあり、「まさかね…」という思いがあったのは確か。
 でも、その「まさか…」だった。JR東海は29日、家城-伊勢奥津間を廃止し、バス輸送への切り替えを決定したと発表した。って、そんな一方的な発表でいいのだろうか? 報道では「自治体と協議を開始した」とあるが、決定してから協議するのではなく、協議してから決定するのが物の道理ではないのか?
 被害が軽微で利用者も(名松線内では)多い、平野部の区間を復旧開通させたことで、区間廃止による影響は少なくなった。起点の松阪駅を擁する松阪市は区間廃止の影響を受けず、廃止決定に際しても大きな反対はあり得ない。
 区間廃止で終点となる家城駅は、津市白山町(旧・白山町)。2006年の市町村合併で津市となった旧白山町もまた、名松線内では家城駅が最後の駅となるため、区間廃止になっても大きな影響は受けない。乗客の大半は、松阪方面への利用なので。
 いっぽう、多大な影響を被るのが家城駅の次、伊勢竹原駅から終点・伊勢奥津駅まで、つまり今回の廃止区間の全駅を擁する津市美杉町(旧・三杉村)。合併で広大となった津市でも末端の山間エリアになるため、津市側が大きな反対運動を起こすとも思えない。
 こうした背景を考えると、もともと名松線を廃止したかったJR東海にとっては、まさに絶好の機会が訪れたとでも言うか…。これが市町村合併前なら、旧・美杉村というひとつの自治体を相手に戦わなければならず、公共交通機関である立場からしても簡単に「廃止します」とは言えなかったはず。
 が、今なら、「天災なのだから仕方ないでしょ」で済ませられてしまう。
 あまりに予定調和的すぎる。


 家城-伊勢奥津間の被害が甚大で、復旧に多額の費用を要することは、JR西日本のプレスリリース、《名松線の今後の輸送計画について》の別紙(pdf)からも見て取れる。ただ、同様に台風被害で壊滅的な打撃を受け、一区間も復旧しないまま全線廃止に追い込まれた高千穂鉄道の被災状況をこの目で見てきた自分には、「この程度の被災なら復旧に問題はないだろ?」と思えてしまう。まことしやかに「並行道路もこんなに整備されているので、鉄道がなくても大丈夫ですよ」と主張する様にも、違和感を感じずにはいられない。
 復旧費用の回収など到底見込めない閑散線区であることは、誰の目にも明らか。山岳区間でもあり、仮に全面復旧が為ったにしても、いつまた壊滅的な打撃を受けるかわからないのも確か。
 古くは伊勢湾1959年の伊勢湾台風で大打撃を受け、1982年8月の台風10号による被害では(今回の廃止予定区間でもある)伊勢竹原-伊勢奥津間が10か月間もの長期運休を余儀なくされた。全国の赤字路線廃止問題がクローズアップされていた当時だけに、当時の国鉄は廃止承認→国鉄バスに転換の申請を提出。が、地元の反対運動と並行道路が未整備であるという状況から、運行を再開した経緯もある。1985年には廃止対象路線からも除外され、廃止承認申請が取り下げされている。
 つまり、「簡単には廃止できない」歴史がある。
 いっぽうで、その後も台風の度に被害を受け、部分運休~復旧を繰り返してきた歴史もある。

 近年のローカル線における天災で思い浮かぶのは、三江線、越美北線、大糸線(糸魚川-南小谷)。いずれも壊滅的な打撃を受け、このまま廃止されるのではと危惧されたものの、無事に復旧している。奇しくも、管轄はすべてJR西日本。JR東海以上に大赤字ローカル線を多々抱えるJR西日本ですら、「天災だから仕方ないでしょ」などとは廃止にしなかった。もちろんその陰で、政治的な判断が働いたことは容易に想像できるけれど。
 それら膨大な赤字資産のしわ寄せが、コストダウン&利潤追求→福知山線事故という負のリンクにつながったことは否定できない…というのは、また別の話。

 なぜここまで名松線にこだわるのかと言えば、自分の父方のルーツが三重県だから。いや、それはほんのちょっとした部分。松阪市や旧・美杉村には親戚もおらず、縁も所縁もない。
 それ以上に、「JR東海が嫌い」だから。
 JR各社の中ではもっとも赤字ローカル線資産が少なく、東海道新幹線というドル箱を抱えながらも、利用者無視の利潤追求を徹底する方針。それは、JR東海管内の路線を利用する度に実感させられるもの。徹底した自社独立精神からJR他社との関係も良好ではなく、JR東日本とは犬猿の仲だと言われる。その結果、JR他社←→JR東海の区間を相互利用する際の利便性は、大きく損なわれてきた。
 これはあくまで主観かつ想像に過ぎないけれど…。JR各社の中で、JR東海は国土交通省に対し、もっとも強力な存在なのではないかと。東海道新幹線の買い取りに約5兆円を支払い、なおかつ老朽化しつつある設備に莫大な費用の延命措置を施し、さらに整備新幹線などの恩恵は一切受けないまま、国鉄債務の返済に務める優良企業とも言えるのだから。話題の中央新幹線も、全額自社負担で建造すると明言している。
 山陽新幹線も東海道新幹線と同様、国鉄民営化に際し買い取りとなったものだが、JR西日本が支払った金額は1兆円に満たない。ましてやJR化後に建設された各整備新幹線など、その負担は比較にもならない。

 今回の名松線問題に、こうしたJR東海の奢りが見え隠れしてならない気がするのは…自分だけ?
 名松線沿線の方には申し訳ないけれど、総じて判断すれば「廃止もやむなき」路線ではあると思う。ただ、その「待ってました!」と言わんばかりのやり口が気にくわない。そんな話。

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